Superb Garbages 2

千野純一(chinorin)のはてなダイアリーの続きです。

電子回路の基礎の基礎⑤:トランジスタ~エミッタはいったい何を放出するというのか~

  • もーいきなりトランジスタにいっちゃいましょう。これこそ電子部品の大本命。トランジスタがわかればもう電子回路の基礎なんて言ってる場合じゃないでしょう。初級者は充分名乗れると思います。はい。ボクは初級者でーす。
  • コイルとオペアンプを理解したとき、俺は中級者になれるのではないか。


  • 電気を説明するとき、水道管を流れる水に例えることがよくあります。電圧は水圧あるいは位置エネルギーに、電流は流れる水の量に、抵抗はパイプの細さや水車に、そして電源は下まで落ちた水をくみ上げるポンプにそれぞれ対応します。電圧の高いところから低いところへ向かって電流が流れ、パイプが細いと流れにくい。分かれ道(並列)があったら分流するけど分圧はせず、踊り場みたいな場所があるとその前後(直列)で分圧するけど分流はしない。なるほど見事なたとえです。
  • 電気をそのようなモデルで説明した場合、トランジスタは水道管の途中に設置されたバルブに例えられます。このバルブは通常、本流のパイプを通る水の流れを完全にせき止めています。しかしこのバルブはなぜかちょっと水をかけただけで回るようにできており、その「ちょっとかける水」の量を調節することにより、本流のパイプを通る水の量を操作することができます。そして水をかけるのをやめると、また本流のパイプの水を完全にせき止めます。
  • トランジスタの機能というとまずスイッチとか増幅という単語が出てくることが多くて色々と誤解しがちなのですが、この水道とバルブの説明が断然わかりやすいと思うんですよね。

 

  • トランジスタは、P型半導体とN型半導体というのを互い違いに3個並べた構造をしており、並べ方によってPNP型NPN型の2種類が存在します。PはPositiveつまりプラス、NはNegativeつまりマイナスのことです。電気はプラスからマイナスに向かって流れるのでPNPは外から内へ、NPNは内から外へ流れるのが自然な方向です。それをふまえて、こんな記号。
    f:id:chinorin:20211007204420p:plain:w250
    (2022年4月12日追記)アレェ⋯⋯⋯この図、PNPとNPNが逆ですよね? ちゃんと説明書いてるのに台無し。いやね、今でも頭の中で「ええと、NPNは真ん中がプラスだから、外側に向かって流れるから、えっと、プラスで動作だよな?」っていう確認をしないといけないほど感覚的な理解に乏しいので、っていうのも言い訳だな。すみません左のがNPNで右のがPNPです⋯。
    P型あるいはN型の半導体が、名前の通りの順番で、縦に3個並んでいるのをイメージしてください。矢印は電気が流れる方向を表しています。なおトランジスタの周囲に描かれている丸は書かないことも多いです。
    (1個の部品として扱うときには丸を書き、論理的な考え方を扱うときは不要って感じはなんとなくありますがまあどっちでもいいとは思う。わかるし)
  • トランジスタには3つの端子があり、記号の真ん中から(上図では横方向に)出てるのがベース(B)、ベースと矢印で繋がってるのがエミッタ(E)、残りがコレクタ(C)です。説明上この順番で書きましたが、この3つの単語を覚えるときはエミッタ・コレクタ・ベースの順で覚えましょう。部品を正面から見たとき、端子がその順番で並んでることが多いからです。E→C→Bの順から「えくぼ」という語呂合わせが有名です。

 

  • で、実際の使い方を説明しようかと思って回路図作りながら、こんなん教科書に書いてあるんだから教科書読めばええやんと思ったけどここはぐっと我慢してやっていきましょう。まずはNPNがわかりやすいのでNPNから。
f:id:chinorin:20211007204544p:plain
NPN型トランジスタを使った回路
  • この回路の現状は、左下のスイッチが繋がっていないのでベースには電気が流れていませんよね。ベースに電気が流れていないときはコレクタは切断状態、つまり図左上の分岐からトランジスタまで、上側の経路は通電しません
    (一応:コレクタのところが切断してるということは、上の経路はトランジスタのところで行き止まりです。下もスイッチのところが繋がっていないので行き止まりです。この状態では電源からGNDまで繋がっている経路が存在しないので、回路全体において電気が流れません)
  • 左下のスイッチを接続すると、ベースからトランジスタ内に電流が入っていき、エミッタへ抜けてGNDへ落ちます。このようにベース~エミッタ間に電流が流れている間だけ、コレクタ端子が接続状態になります。つまりこの回路は、左下のスイッチをクローズするとLEDが光るというものです。
    (一応:ただ光らせたいだけならスイッチの後に直接LEDを接続すりゃそれでいいんですけど、この回路はトランジスタを説明するためにわざわざ遠回りをしています)
  • こんな感じで、ベース電流の有無でコレクタが接続されたり切れたりする様子をみんなトランジスタによるスイッチみたいな呼び方をしてるように思います。
  • コレクタから入ってきた電流もエミッタへ抜けますが、コレクタに入ることができる電流量は、ベース~エミッタ間の電流量で決まります。その倍率を表すのがトランジスタのスペックにあるhFE(利得)という値で、例えば90~180とか、135~270とか、300~600とか、80~400とか、データシートにはそういう幅のある数値が書いてあります。このへんは、温度やらなんやらの様々な条件により誤差がめちゃめちゃでかいのであまり精密に考えることはできないようです。*1
  • 例えばhFEが90~180のトランジスタにおいて、温度やらなんやらの関係でたまたまhFEがちょうど100になっている瞬間があるとしましょう。そのとき、ベースに1mAの電流を流してやると、そのときコレクタから入ってくる電流(の上限)は100mAです。ベース電流を2mAに増やしてやると、コレクタ電流は200mAになります。
  • このように、ベース電流の量でコレクタ電流の量を調節できる機能をみんなトランジスタによる増幅みたいに呼んでるみたいです。
  • ここが誤解しやすいというかボクも子供の頃からずっとよくわかんなくてやっと最近理解したのですが、「増幅」だからといって無尽蔵の電流がどこからか湧いてくるとか、トランジスタ内部で何かを変換して電流を作るなんてことはもちろんありませんトランジスタ水の量を調節するバルブというたとえを思い出してください。バルブを回して全開にしても、せいぜい流れてきた水の全てを素通りさせるくらいで、それより多くの水が突然生み出されるなんてことはありません。
  • なので、上の回路でhFEが100、ベース電流が1mAの場合、コレクタ電流は間違いなく100mAということになるのですが、抵抗などで調整してコレクタへ続く上の経路に10mAしか流れないようにすると、エミッタから出てくるのは(理想的には)ベース電流1mA+コレクタ電流10mA=11mAです。実際はトランジスタ内部での損失があるのでそれよりちょっと少なくなるとは思いますが。

 

  • 以上がトランジスタの機能なわけですが、お察しの通りというかよく言われてる通りというか、これまた応用範囲がめちゃめちゃでかい部品で、とんち的な使い方が色々あります。例えば同じトランジスタを2個重ねて接続すると最終的なhFEが2乗になったりとか⋯⋯ダーリントン接続って言うんですが。
    f:id:chinorin:20211012230558p:plain:w550
  • エミッタ抵抗とかもちょっと面白いんだけど、そういう応用を紹介する前にPNPの説明をしなければならん。

 

  • どう書けばわかりやすいんだろうと悩んだが、まーわかりやすい図なんて存在せんな。
f:id:chinorin:20211007214149p:plain
PNP型トランジスタを使った回路
  • あーECBの表示を忘れたと思ったけどまあいいでしょ。書いてない状態でわかった方がいいよきっと。矢印になってる端子、つまり上がエミッタです。
  • 要はNPNもPNPも一緒で、矢印方向にベースを通る電流量に応じて、矢印がない方の斜め線を通れる電流量が決まるってことです。この図の現状も、右にあるスイッチが繋がっていないのでベースに電流が流れず、コレクタは切断状態です。スイッチを接続すると、電源~エミッタ~ベースに電流が流れ、その量に応じて電源~エミッタ~コレクタを電流が流れることができ、LEDが点灯します。
  • ちょっとわかりにくいのが、ベース電流がトリガーなのはいいとして、それによって操作する電流がどこから入ってどこへ抜けるかってところかもしれません。とにかく、トランジスタ内で横に曲がる小電流によって、トランジスタ内をまっすぐ通過する大電流を操作するとしとけば大丈夫っぽいかな? まっすぐ通過する方向も矢印を見ればわかるということで。

 

  • これだけだったらPNPとNPNのどっちかだけでいいんじゃないかって思うかもしれませんが、例えばベースにマイコンの端子を接続した場合を考えてみてください。
    • NPN型の場合、ベースに電流を入れるとコレクタ電流が流れます。ベースに電流を入れるには、マイコンの端子をHIGHにします。LOWの場合は何も起きません。
    • PNP型の場合、ベースから電流を引っ張り出すとコレクタ電流が流れます。ベースから電流を引っ張り出すには⋯⋯シンク電源の話を覚えておられるでしょうか。そういうときはマイコンの端子をLOWにします。HIGHの場合は何も起きません。
  • NPNの動作が正論理だとすると、ちょうどPNPの動作は負論理にあたるんですね*2。回路上の配置や集積回路が出力する論理の具合などによっては「NPN型ではなくPNP型を使うことによって部品点数が減る」みたいなことが起こったり、例えばPNP型とNPN型の両方を使うようなとんち系回路では片方しか使えないとなるとめちゃめちゃ複雑なことになったりするのでやはり両方必要なのだと思いまーす。
  • なお、古典的な電子回路の現場では、わかりやすさの点などでNPN型が勝ることは理解されつつも、やはりPNP型が比較的好まれるそうです。NPN型のコレクタ電流はベース電流とエミッタ電流を合成するので大きくなりがち、よってPNP型の方が安全とかそういう理論も一応あるみたいですが、どうもね⋯⋯プルアップの件についても、シンク電源の件についても、単にとんちが好きってだけでは、と疑ってしまう今日この頃でありました。

 

  • ところで表題についてですけど、ベースはまあなんとなくわかるとして、コレクタは収集する人、エミッタは放出する人っていう意味なんですよ。NPN型は確かにそれっぽい動きをすると認めてもいいですが、PNP型はいったい何をcollectして何をemitしているのでしょうか。ぜひ考えてみてください。*3

*1:厳密にやりたいときはオペアンプというのを使うみたいです。そのへんはまだ勉強中。

*2:正論理:プログラムなどにおける判定の方法で、真が肯定、偽が否定みたいなやり方。負論理はその逆で、偽が肯定、真が否定みたいななやり方。

*3:一応、PNP型は電子を、NPN型は正孔をcollect/emitしていると考えることが可能ではあるが、なーんか説明が複雑すぎるんだよなあ。正孔を放出ねえ⋯。