Superb Garbages 2

千野純一(chinorin)のはてなダイアリーの続きです。

電子回路の基礎の基礎④:コンデンサはあなたにとって一生の財産になることでしょうの法則。

 

  • 今回は、知れば知るほどみんな好きになる(と思う)、コンデンサのお話です。別名キャパシタコンデンサの語源はコンデンスミルクのコンデンスと同じで、電気を濃縮するようなイメージらしいです。
  • 電子回路をちゃんとやらないと、コンデンサって何に使うのか意味わかんないですよね。中学高校あたりでなんとなく電気を貯めると教わった気がするけど、それって電池とどう違うのよみたいな。例えば電源切った後にLEDがふわ~っと消えていくのはコンデンサによるものだと聞いたことはあって、だんだん電圧を落とすことで部品を保護するとかそういうこと? くらいのイメージはあったかなあ⋯。
  • 今でも全て理解してるかどうかは謎というかたぶん全ては理解してないと思いますけど、コンデンサ。これがね、雑に言うと「なんか迷ったらとにかく適当に入れときゃいい便利部品」と思って差し支えない。現象自体はこんなに単純なのにどうしてこんなに応用が効きまくるのか(現在まで生き残ってる電子部品はたいていそんな感じだけど)。
  • 「電子回路の主役はコンデンサ」などと言う人もいます。私もそれに賛成です。

 

  • まずは効能をなるべく正しく書いてみようか。なぜそうなるかは置いといて、実際に何が起こるかっちゅーことで。
    1. 直流の電圧をかけると電気のエネルギーを貯めます。どれくらい貯まるかというと、コンデンサのスペックにおいて一番重要な数値「静電容量」(単位はF ファラド)で表されます。1ファラドの定義をざっくり言うと「かけた電圧×1A×1秒」みたいな感じですがこの定義にある数値を使って計算するような場面はほどんどありません。こういうときはこれくらいのを使うみたいな目安がなんとなくあって、文献を色々見てればすぐ覚えられるし、計算が必要なときはファラドをそのまま使うことが多いように思うというかそれしか見たことないです。なお、やってきた電気を全て貯蔵できるわけではなく、貯めている間はなぜかコンデンサのマイナス側に電流が少しだけ漏れます。
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    2. 貯まった電気をどうするかというと、常にかけた電圧に反発する方向へ放電しようとします
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      その電圧は貯電量(?)が増えるに従ってだんだん上がっていき、いっぱいまで貯まると⋯⋯例えば電源の電圧が5Vだとしたら、コンデンサはそれに反発するように5Vの電圧をかけようとして、電源の5Vと釣り合って電位差がなくなります。つまりいっぱいまで貯まると直流はまったく流れなくなります。ついでに貯めている間は漏れていた電流も、その時点でピタリと止まります。
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    3. 電気が溜まっているコンデンサ電圧をかけるのをやめると放電が始まります*1。放電するのは上記で言ってる「かけた電圧に反発する方向」です。放電が進むと貯電量が減っていくに従って電圧も下がっていき、冒頭に言及したような「LEDがふわ~っと消える」みたいなことが起こります。
      (放電は通常一瞬で終わってしまうので、単純にコンデンサ1個を配置したくらいではこの現象を目視することは難しいです。実際は、ごくゆっくり放電するよう調整した上でトランジスタの増幅を使うとか、それからコイル(インダクタ)も電圧をかけるのをやめた時に電気が出ちゃう特性があるので、その組み合わせで起こっている可能性も高いんだと思います。しかしコイルはよくわからんのでよくわからん)
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    • 電気が貯まった状態で回路との接続を切断すると、放電できないので電気が貯まったままになります。電気が貯まったままのコンデンサは取り扱い注意です。くれぐれも素手で触ったり、短絡させたりしないようにしましょう。不意な放電でも、状況によっては1Aとかまでいくらしいのでわりと危険です。
    • なお、電気が貯まったままの状態のコンデンサは乾電池のような使い方をすることもできます。電子回路で普通に使われるコンデンサの容量って、一番小さいもので1pF(ピコファラド。1pF=0.000000000001F)から大きめのものでも100μF(マイクロファラド。100μF=0.0001F)くらいのものなのですが、最近は1Fのコンデンサとかも普通に売ってて、これはわりと頻繁に充電すればボタン電池の代わりくらいにはなるようです(寸法もそれくらい)。でかいのだと500Fのとかもあるらしく、さらに大容量になれば電気自動車のバッテリーとかに使えるんじゃないかと期待されているらしい。それはそれで危なくねえか⋯?
  • 基本的には以上ですが、これらが厳密に起こることによって、パルスのように連続的にON/OFFが切り替わるような電気が来たときや、交流のようにプラスとマイナスが素早く入れ替わるような電気が来たとき、それから突発的に高圧のノイズが来たとき等に一見奇妙な現象が起こります。
    1. パルスのような連続的にON/OFFが切り替わる電気が来たとき。例えば回路全体と並列にコンデンサを接続しておくと、ONのときに充電しOFFのときは放電するため、回路全体にとってはあたかもパルスのOFF部分が埋まったような電気が流れることになります。つまりコンデンサは電気を平滑化します
    2. 交流のようにプラスとマイナスが素早く入れ替わるような電気が来たとき。最初のプラスではあっち向きの電気を充電します。次のマイナスではあっち向きに放電しつつこっち向きの電気を充電します。その次のプラスではこっち向きに放電しつつあっち向きに充電します。その次のマイナスではあっち向きに放電しつつこっち向きに充電します。こうやって文章で説明しても意味わかんないと思いますが、とにかく交流が来ると極の入れ替わりと同じタイミングで充電と放電が起こります。これは交流がそのまんま通過しているのと同じ現象なので、通常そう見なします。コンデンサ交流をスルーします
    3. 突発的に高圧のノイズが来たとき。ノイズの電圧で充電し、ノイズがなくなったら元の電圧に落ちるまで放電するのでノイズの角がなめらかになります。これも平滑化の一種です。場合によってはあたかもノイズがなくなってしまったかのように見えることもあるかもしれません。もちろんノイズだけでなく、突発的な電圧変化などがある信号なら同じように平滑化します。
  • 例えば、集積回路を使った高周波なデジタル回路などにおいては、集積回路が忙しく働く(多くの電力を消費する)ことにより一時的にそのあたりの電圧が落ちたり電流が枯渇するようなことがあります。そのとき集積回路の脇に充電されたコンデンサがあると、コンデンサからの放電により電力不足で機能不全に陥るはずだった集積回路が正しく動き続けるといった現象が起こります。
  • さらに接続方法によっては高周波な回路から発生しがちなノイズもそのコンデンサが(平滑化や、交流ノイズをGND側にスルーすることによって)消したりして⋯⋯そんな風に色々と便利な役割を担ってくれる割には目立ったデメリットもなく*2、冒頭で「なんか迷ったらとにかく適当に入れときゃいい便利部品」と書いた意図がわかってもらえるでしょうか。
  • なお、コンデンサが必ず持っている容量性リアクタンスという数値が交流の流れにくさ(つまりインピーダンス)に影響を与えたり*3、材質や静電容量によってスルーしがちな交流の周波数帯が違ったり*4、材質によって異なる故障モード(故障したときに短絡するとか絶縁するとか、そういう壊れ方の違い)があったりします。なのでセラミックとかアルミ電解とか積層セラミックとかフィルムとかタンタル電解とかイカ*5とか電気二重層とか色んな材料を使ったコンデンサが存在し、さらに可変コンデンサなんてのも一応あって*6、可変コンデンサにもバリコン*7(普通に手で回すようなやつ)とバリキャップ*8前回参照。通常可変コンデンサとして扱われるのになぜかダイオードの仲間)っていう使い方が全然違う2つの種類があったり、まだまだ説明しきれないことが本当にたくさんある、奥の深すぎるパッシブ(受動素子*9)なのでありました。
  • 電子工作に縁のない方も、機械の電池を交換するために裏蓋を開けた時など、コンデンサを目にする機会が少しはあるのではないでしょうか。そしたら、そいつはそこで電気貯めたりノイズ消したりしてるんだな、と思い出していただけると幸いです。いやあ、コンデンサって本当にいいもんですね。

*1:電源の電圧低下でも放電が起こります。つまり電位差の話ってこと。

*2:もちろん貯めてる間はコンデンサばかりが電力を吸い込むことや、その間の漏れ電流が問題になることはあるでしょう。

*3:インピーダンス複素数として表す場合に、その虚数部に負の影響を与える。つまり絶対値が減少する。実際は、ここが超おもろいんだけど「交流が通過するためにかかる時間が減少する」。これはコンデンサが交流をスルーする際の機序やコンデンサの厚みを考えるとなんとなくわかる気がする。

*4:概して、容量が小さい方が高周波に対応できる。

*5:イカ:雲母のこと。

*6:可変コンデンサ:静電容量を変えることにより特定の周波数を選定するのでラジオのチューナとかに使われる。

*7:バリコン:バリアブルコンデンサと言いたいんだと思う。絶縁層に樹脂ポリマーを使ったポリバリコンや絶縁層に何もない(空気だけがある)エアバリコンなどが存在する。

*8:バリキャップ:バリアブルキャパシタと言いたいんだと思う。

*9:受動素子:やってきた電気にしか影響を与えず、自分からは何もしない「抵抗」「コンデンサ」「コイル」の3種の神器のこと。電子回路ならどんなものでもこの3つの組み合わせに置き換えることが可能らしいです。ほんまかいな。