Superb Garbages 2

千野純一(chinorin)のはてなダイアリーの続きです。

S-VHSの呪い、HD DVDの亡霊

・こういうの前にも書いたと思うし今更なんだけどたまたま4K Ultra HD Blu-rayっていう文字列を見かけて怒りを思い出してしまったからさ。

・古の昔、映像メディアというジャンルで競争があった。40代以上でないともう実感はないかもしれないが言わずと知れたベータマックス通称「β」対「VHS」の争いだ。さて、「ベータ」と「ブイエイチエス」(当時はエッチという発音が可能だったので「ブイエッチエス」と言ってたかもしれない*1)、どっちが言いやすいだろうか。電気屋さんで「ベータください」と「ブイエイチエスください」、言うとしたらどちらがいいだろう。

・まあ、これはまだよかった。「ブイエイチエス」は許容範囲だったということで、なんやかんやでVHSが勝利し、これで「言いにくい方」の1勝。のちにS-VHSとかD-VHSとかあったんだけどまあVHSにだいぶ慣れちゃったからまだやれたのかな。っていうかD-VHSって知ってる?

・次にCDからの派生*2でアナログ映像ディスクのけっこう地味な競争があった。レーザーディスク通称「LD」対「VHDの争いだ。さて、「エルディー」と「ブイエイチディー」(例によって「ブイエッチディー」って言ってたかも)のどちらが言いやすいだろうか。

・LDは非常に扱いにくい裸のでっかいディスクなんだけどVHDはカードリッジに入ってるやつを自動的に吸い込む方式だったりまあいろいろありつつもオタク文化のあれによってこれはLDが勝った。これで1勝1敗のドロー。

・次はデジタル映像ディスクなのであるが、これは目立った競争がなく、DVDのほぼ不戦勝というような感じだった。どうだろう。「ディーブイディー」って言いやすいと思う? 俺は言いにくいと思うんだ。技術畑では「デーブイデー」と呼ぶ人もけっこういたのも言いにくいことの証左だと考える。不戦勝ながら、言いにくい方の2勝1敗

・そんで青色レーザーデジタル映像ディスクの時代が幕を開け、新たな争いが始まった。そろそろディスクもどうなんだって世の中ではありつつも、Blu-ray Disk通称「ブルーレイ」あるいは「BD」対「HD DVDというカードである。さて⋯⋯ここまでくると非常に馬鹿馬鹿しい問いになってしまうのだが、一応やろう。どっちが言いやすいだろうか。俺は圧倒的に前者だと思う。「エイチディーディーブイディー」なんて言うのにいったい何秒かかるんだ。それに「ディーディー」なんて日本人が発音可能な文字列ではないのだ。(64DDに謝れ)

・これはさすがにブルーレイの勝利となった。当然だ。これも何度も言うけど、誰が店頭で
「これのエイチディーディーブイディー版ありますか?」
「お客様申し訳ありませんこちらのエイチディーディーブイディー版は品切れになっておりまして⋯」
「えー、エイチディーディーブイディー版ないのぉ? 困ったなあ、俺エイチディーディーブイディーデッキしかもってないからエイチディーディーブイディーじゃないと困るんだよなあ」
「こちらのエイチディーディーブイディーは2~3日で再入荷の予定となっておりまして、よろしかったらご予約いただければこちらのエイチディーディーブイディーが再入荷したときに確実にご購入いただけますが」
「そうですか、エイチディーディーブイディーは再入荷するんですか、じゃあエイチディーディーブイディーを予約しようかな」
「エイチディーディーブイディーのご予約ありがとうございます!」
みたいな会話をしたいと思うんだろうか。書いてて一度くらいはしてもいいなとちょっと思ったけど。これで2勝2敗、再びドロー。いい試合と言っていいのではないだろうか。

・そんで次が一番最近の流れね。ブルーレイでは容量が心許なくなり次世代メディアが望まれる時代となったが、もう本格的にディスクとかもういいだろって感じになってしまってライバルとなる陣営も出てこず、ここではブルーレイの後継メディアが一人勝ちというのが自明という状況が生まれた。最新規格ではどんな自由なことをやっても大丈夫なのだ。やったー! これで好きな名前をつけられる! と開発側の人たちが思ったのかどうかは知らん。

・そうして満を持して登場したのが「4K Ultra HD Blu-ray! ここにきてまさかの「HD」復活である。えぇ⋯⋯こんなのブルーレイ2とかでよくない?

・誰が店頭で
「これのヨンケーウルトラエイチディーブルーレイ版ありますか?」
「お客様申し訳ありませんこちらのヨンケーウルトラエイチディー⋯⋯オチは爆発でいいよね?

・かくして物理的な映像メディアというものは跡形もなく滅亡したのであった。お疲れさま。次回はUSB 3.2 Gen 2×2でロボトルファイト!

*1:現在の日本においては、公共の場所でHを「エッチ」と読むのは不可能になってしまった。昔はNHKをエヌエッチケイと言ってたし、鉛筆のHBもエッチビーって言ってたと思う。

*2:技術的には全然違うものだけど庶民としては銀色に光るディスクだったから似たようなものとして認識している人が多いだろうと思う